11月は児童虐待防止推進月間。音楽教育と教育虐待について考える。『父の逸脱 ピアノレッスンという拷問』『ルポ教育虐待』
- 2020.11.04
- 子育て 母さんのひとりビブリオ
昔は当たり前だと思っていたしつけや指導が、今や虐待と認識されることも多くなってきました。数年前ぐらいから虐待に関しての報道が増え、いたましい事件も多く目にすることに。
つい先日だと、以前NHK-BSで特集をされていたサーカス団の父親が虐待の疑いで逮捕されました。娘さんの技の練習中に上手くいかないとベルトで叩いたりしてたそうです。娘さん本人が駐在所に駆け込み発覚。私も特集を見ていたので「え…あのお父さんが…にこやかな感じの人だったけど…」とモヤモヤした気持ちになりました。
音楽業界も小さい頃からできる楽器はスパルタ教育が当たり前みたいなところがあって、昔に比べれば減ったとはいえ、お教室や各家庭でかなりの指導が今も行われているのではないかと思います。
もちろん楽器の練習に関してはかなりの練習時間&濃密な練習内容を費やさなければ上手くならないのは理解していますが、それを本人の意志や人権に反して過度の音楽教育を行っているのであれば、かなり問題があるんじゃないかと感じています。
そう思うようになったのはあることがキッカケです。
子供がチェロをしているので、大人になった演奏家さんたちに「小さいころは何になりたかったですか?」とお話を聞いてみると
「親が音楽以外のことをさせてくれなかったので、この道を選ぶしかなかった」
「楽器以外の選択肢を与えてもらえなかった」
「学校はあまり行かせてもらえず、楽器の練習ばかりでやりたいことを見つけようがなかった」
というような答えをする方がいて驚きました。(しかも暗い顔で…)
世襲制でもない職業なのに、やりたいこともやらせてもらえず、今もどこか投げやりに音楽活動をしている…。
もちろん↑のような方ばかりだけでなく、自分自身の意志で活動されている方も多くいます。
そうならないように自我がしっかりと目覚めるあたりから、本人がやりたいことや意思を尊重して育てていかないといけないなと思います。
スポーツ系の行き過ぎた指導が次々に問題なり、今では前ほどの指導は減りました。そろそろ音楽教育についても考える時期にきているんじゃないかと思います。
そんな教育虐待について、最近読んだ本↓

まずタイトルを見るだけで胸が痛くなる『父の逸脱―ピアノレッスンという拷問』
「わたしの物語に耳を傾けて――。
忘れてしまうべきか。赦せばよいのか。どのようにして人生をやり直せばよいのか。
音楽の才能があると言われ、わたしはピアノを弾く家畜になり、父はわたしを拷問し続けた。
周りの人たちは目を背けた――。」(アマゾンより引用)
これ実話です。フランスでのお話。映画化も決まっているそうですが、かなり衝撃的でした。
4歳からプレイルームと称した部屋で父親と毎日7時間ものピアノレッスンが行われ(間違えるとベルトでむち打ち、ごはんぬき)、コンクールで1位をとっても「またこれからも拷問が続くのか…」と思う日々。レッスンで上手く行かなければ帰りの美容院で丸坊主にさせられ(筆者は女の子)、過酷なレッスンのあまり「月曜日には生きて学校に行けるだろうか」と思う週末。
ピアノの練習時間以外の扱いもかなりひどいもので、かなり衝撃。
「お前なんてこれでいい」とごはんをぐちゃぐちゃにしたものを食べさせたりして、逃げ場がない。
しかも悲しいことにプレイルームに母親と妹は出入りしていなかったり、虐待の傷がわからないように水泳などの授業は受けさせてもらえなかったり、本人もどうせ誰に言っても信じてもらえないなどいろんな条件が重なり、事件が発覚する14歳ぐらいまで誰もこの事実を知らなかったということ(中学校の保健室の先生が異変に気づいて耳を傾けてくれた)。
そして事件が発覚しても、外では人当たりのいい父親なので、筆者本人の虚言じゃないかと疑われたり…悲しすぎる。しかも父親はいまだ自分の罪を認めていないんですよね。「しつけだと思ってやった」「過度な暴力はしていない」。たまに日本でも捕まった親が述べる供述と同じ。これが今も筆者本人を傷つけている原因の一つです。
ただこの父親も実の父親から虐待を受けていて、父親が悪いという単純なものではないんですよね…。
印象に残ったのはこんな一文。
「音楽性が素晴らしいとか褒められたけど、父に怒られないようにただ言われた通りにやっていただけで、そこに何の音楽性もなかった。」
書いてて涙が出そうになる…どれだけのことを耐えてきたのかと思うと悲しすぎる。
もし親が学校に行かせずにずっと家で練習させる方針で、誰にも気づかずに人生を過ごしていたかと、もしかしたら命を落としていたかと思うと本当にゾッとします。
今は筆者本人は医師になり、拒食症に悩まされながらも、こういったことが二度と起きないような活動をされているそうです。
そして次はこの本↓
ルポ教育虐待。
いま、社会問題になりつつある「教育虐待」。
子どもの限度を超えて勉強や習い事をさせるなど、親が過干渉し、結果が悪いと暴力につながることもある。
「あなたのため」という言葉を武器に追いつめる親と、
「生きづらさ」を感じて自分らしく生きられなくなった子どもを、
教育ジャーナリストが取材し、その実態に迫る。
【目次】
第1章 「あなたのため」という呪い
第2章 第一志望に合格しても癒えぬ傷
第3章 摂食障害や万引きというSOS
第4章 シェルターに来るのは女子が圧倒的多数
第5章 スパルタ教育での“成功”は美談か
第6章 理性の皮を被った感情の暴走
第7章 最凶の教育虐待を生む2つの機能不全
第8章 結局のところ、親は無力でいい(アマゾンより引用)
この本は音楽教育以外でも、とても勉強になりました。
「勉強以外はするな」と言われて暴力を振るわれた子、
過度な受験勉強の末に、髪の毛を食べてしまうぐらい精神をやんでしまった子…。
だいたい中学生あたりからどんどん心が崩壊していていく様子が鮮明に書かれて、大人に成長しても過去のことがトラウマとなり、人生に影響を与えてしまっている様子が鮮明に書かれています。
一度、壊れてしまった心はなかなか元に戻らないんです…。
特に第5章のスパルタ教育での“成功”は美談か。
ちょうど最近考えていたこととドンピシャ。
昔、五嶋みどりさんのお母さんが書いた本『母と神童―五嶋節物語』を読んだことがあり、明け方まで1フレーズを練習させたみたいな記述があって、それを見て私は
「普通に虐待じゃん」と思ってしまいました。
五嶋みどりさんは音楽家として成功してるから美談とされてるけど、実はみどりさん本人は過去に摂食障害なども患っていたりして本当は美談じゃないと思うんです。
もちろん節さんの教育があったから成功したんだろうけど、果たしてみどりさん自身の人生や人権はそこにあったんだろうかと。
アマゾンのレビューを見ても「神童を生み出した」とか「天才をつくる条件だ」とか書いてあって、私はみどりさん自身の人生を考えてみるととてもじゃないけどそんな風には思えないし、節さんの本は出版されているけど、みどりさん自身はこういった本を出していないので、ご本人がそういう教育をされてどう思ってたかなんてわからない。
本当はそこが大事な部分なのに、結果だけを見て「天才」とかいうのはどうなんでしょうか。
ちなみに節さん、2006年のインタビューでは、
「後悔しています」だけでなく、『バイオリンをいつやめてもいいよ』と言いながら、やめられないところに娘を追い込んでいた。あれは虐待だったと思います、と述べています。(ちゃんとご自身の過去を振り返っていて行いを認めている、これができるかできないかで子供の心の傷はかなり変わるはず)
本人の力以上のことを求められ続けて、心と身体を壊してしまった人の声ってなかなか表に出てこないんです。
『ルポ教育虐待』を読むと、親に反抗できない、いい子ほどそこに危うさがあると感じました。
改めて子供の人生って親のものじゃない、子供の意思や人権について、過度な教育は子供にとってどうなのか、めちゃくちゃ考えさせられました。
音楽教育がスポーツと大きく異なる点は、教室や自宅などの密室で練習するから第三者の目に見えづらいんですよね。
苦しんでいる子供の声は、なかなか届く環境じゃないんです。今もどこかで苦しんでいる子供がいたら、そんなに苦しまないで自由に生きていいんだよって言ってあげたい。楽器の練習とかどうでもいいから好きなことをして生きたらいいんだよって言ってあげたい。心が壊れる前に誰かに助けを求めてもいい。親の人生じゃなくて自分の人生を生きてほしい。
そしてわが家でも何回言っても間違える指番号&アーティキュレーションを忘れるのはどうしたらいいもんやら…。同じことを言い続けるのもまた大変なのよ。
読書の秋。勉強の秋。苦悩の秋。忍耐の秋。
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