2019年4月30日放送。私は左手のピアニスト(3) 第1回 左手のピアノ国際コンクール『18歳の時、ラフマニノフのピアノ協奏曲2番をオケと共演。ガン・チャイキティワッタナさん』
今回このコンクールにタイから参加した青年がいます。ガン・チャイキティワッタナさん(男性)。21歳。
2年前から右手の親指に原因不明の不調を感じています。ガンさんは12歳でオーケストラと共演するなど、若き逸材として注目されてきました。
18歳の時、ラフマニノフのピアノ協奏曲2番をオケと共演してる映像が流れます。
ガンさん
「ステージでお客さんから拍手をもらった時、人生の絶頂の瞬間だと感じました。」
20歳の時、オーストリアの名門音楽大学に入学。まさにこれからという時に右手の親指に違和感を感じました。
ガンさん
「右手の故障が発覚して、ストレスを感じて。 もう思い描いていた将来を手に入れることが出来なくなって。何で自分がこんな目に合うんだと思って。ある日突然、自分の夢が壊されたような衝撃でした。たった右手の親指一本のせいで。悲しい気持ちはもちろんですが、将来どうなるか想像できない不安がありました。」
タイにある国立マヒドン大学のキャンパスが映し出されます。ガンさんは一時帰国して恩師を訪ねました。日本人の中川恵里(なかがわ えり)さん。この大学で20年間教鞭をとっています。ガンさんは12歳の時から師事してきました。
その時の状況を中川先生が話し始めます。
中川先生
「あなたは大変な状況で、私は連絡をためらっていたわ。お母さんはどうしようもないパニック状態だった。でもそれが私たちの人生だと思うの。何が起こるかわからない。」
そう言ってガンさんを励まします。
ガンさん
「多くのドクターの元を訪ねて、MRI や CTスキャンなどあらゆる検査をしました。でも原因がわかりませんでした。なぜ原因を見つけられないのかと落ち込み、混乱しました。」
中川先生
「こんなに才能があって、ピアノが好きなのに本当にかわいそう。代わってあげたいと思います。だけどもやっぱりこれも運命として受け止めて。こういう状態で何ができるかっていうのを自分で探して、希望を持ってね。これからまだ若いですから、発見して頑張って欲しいと思います。」
親指の不調の理由は何か治るのか、治らないのか。悩みを深めるガンさんに中川さんがコンクールへの出場を勧めました。
ガンさんの自宅でお母さんと食事をしているシーンが映ります。
ガンさん
「今回のコンクールの参加を決めて良かったと思ってるよ。自分と同じような問題を抱えている人と知り合えるし、解決策とか知っているかもしれない。」
お母さん
「確かにそうね。色んな参加者と出会えて、色々話をして、相談もして仲良くなれるかもしれない。」
ガンさん
「意見の交換もできるかもしれない。将来のことをどう考えているのかとか。」
これからピアニストとしてどういった道を選択すればいいのか、ガンさんは将来への希望を見出したいと考えていました。
そしてガンさんの本番です。
曲はスクリャービン作曲『幻想曲と夜想曲作品9』
スクリャービンが右手を痛めた時に作曲し、左手のピアノを代表する曲。ガンさんにとっても思い出が深い。
演奏後、ロビーにて。
中川先生
「色彩豊かでとても美しかったけど、ちょっと柔らかすぎたわね。」
ガンさん
「そうですね。音を出した時に、自分の思った通りの音じゃなかった。」
中川先生
「本選に進めたら思い切ってやりなさい。」
さて、今回のピアノコンクール審査の基準はどこにあるのでしょうか。
審査員の一人、東京音楽大学教授の小林出(こばやし いずる)さんは言います。
小林さん
「僕はあのやっぱり音の響きですね。響きがやっぱりこう、どういう風な波動をこちらに伝えてくれるかということと、ピアノの持っている響きを限界まで、その響かせ方を知っているか、知っていないかっていう。そこが一番大きい。」
今日はここまで。
それではまた明日。
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