2019年4月30日放送。私は左手のピアニスト(8) 第1回 左手のピアノ国際コンクール『いよいよプロフェッショナル部門の本選。栄冠は誰の手に?』

昨日からの続きです。

コンクール最終日。プロ部門の本選 。

最初の演奏者、高岡準(ひとし)さん、30歳です。国内や海外のコンクールで優勝を重ね、演奏家として活躍していた20代半ばからジストニアの症状に悩んでいました。

高岡さん
「今まで本当に近しい先生とか友人にしか、この右手の状況っていうのは話したことがなくて。ただこういうオフィシャルな公開の場で、こういうコンクールに出るって事は、まぁそうなのかなと思われるということで。僕にとっても一つ覚悟をもって受けようとは思います。でもこれはもしかしたら僕のうがった見方も入るかもしれないんですけれど、例えば伴奏でお願いしようと言った時にちょっと右手に問題があるからとかそういったことが起こるのかなあなんて。いろんな悪い方へ悪い方に考えたりしますよね。でもまあきっとそういうことはないんだろうとは思っています。別にそれはそれなので。」

曲は、
『左手のためのシャコンヌ ニ短調』 JS バッハ作曲、ブラームス、ウィトゲンシュタイン編曲。

大量に汗をかきながらの熱演です。1音1音が心に訴えてくるような。
演奏が終わっときに「え?もう終わり?もっと聞いていたい!」と思わせる素晴らしい演奏でした。


高校3年生の早坂眞子さん。両手から左手へ転向したばかり。未来へ向けて挑戦します。母親の千賀(ちか)さんには忘れられない娘の言葉があります。それは右手が不調になった直後のことでした。

お母さん
「もうピアノ止めていいんだよ、っていう話をしたこともあるんですよ。それが分かった直後ぐらいに。でもその時も嫌だって言ってた。」

眞子さん
「反発したよね。」

お母さん
「足がなくなっても、手がなくなっても、死なない限りはピアノ弾くみたいなこと。」

眞子さん
「そんなこと言ったっけ?私の中、私の右手はもう死んでるも同然ぐらい弾けてなかったから。それでも弾きたいっていうのを伝えたかったから。多分手がもげても、足がもげても、私は生きてる限り演奏がしたいって言ったんだよ。」

お母さん、思わず涙。
「そうね。なんか思い出しちゃった。」

眞子さん
「懐かしいな。」

本選の曲は、
『ロマンティックなカプリース』サンカン作曲。

演奏後、眞子さん
「ちょっとあんまりよくあんまり良くなかった。予選の時、すごい感覚が良かったのでらその感じでいけたら結構良かったんですけど。それができてなかったので、ちょっとあんまりかなって。」


笑顔で会場入りしたのは瀬川泰代(せがわ やすよ)さんです。実はこの時、大きなプレッシャーと戦っていました。

オーストリアに留学して6年目。両手の演奏家にまじり、コンクールで入賞を重ねてきました。左手は少数派としての孤独な戦いでした。それだけに今回は左手のピアニストが集う中で実力を出し切りたいと考えていました。

ところが練習をしすぎて、左手を痛めてしまっていたのです。

瀬川さん
「一週間前に全く弾けなくなったんです。歌えない、音が鳴らせない、響かない。でそれに自分が築けなくて、習ってる先生に言われたんです。」

『何やってるか全然わからないよ、何も届かないよ。絶対にコンクールに勝とうなんて思っちゃダメ。勝とうって思った瞬間、音楽は音楽じゃなくなるよ。欲の音楽になるよ。もう1回リフレッシュしなさい。』

「リフレッシュって意味が、ゼロから弾き方、歌い方、全部作っていて、新鮮な気持ちでやりなさいって言われて。」

そして本番。曲は、
『練習曲 変イ長調 作品36』
ブルーメンフェルト作曲。

そして、
『左手のためのピアノソナタ 作品179』ライネッケ作曲。

演奏後、泣きながら舞台袖に戻ってきた瀬川さん。

瀬川さん
「手が痛い。」

楽屋に戻って、落ち着いたあと、
「どんなことを考えて、聞いてる人に審査員だったり。お客さんも予選の時よりも増えてたから、その人達に音楽の中に入ってる思いとか、それは絶対に手がよく調子が悪くても届かせようって頑張ったんですけど、どうなんですかね?」


本選最後の演奏者は、タイから参加した ガン・チャイキティワッタナさん、21歳。

自分の音楽を信じてステージへ。曲は、
『左手のためのピアノ協奏曲』ラヴェル作曲。

コンチェルトなのでピアノを2台置いて奥の人が伴奏を担当します。

ガンさん
「有名な物理学者のホーキング先生がこんな言葉を残しました。生きてさえいればそこにはまだ希望がある。たとえ体に障害があろうと、思わぬ事が起ころう、闘って生きていかなければなりません。」


そして結果発表です。審査委員長でもあり、このコンクールを立ち上げた人。
自身もジストニアになり、左手のピアニストとして活躍されている智内威雄さんの登場です。

「はい。まず本当に素晴らしい大会でした。コンクールを開催して良かったなという風に思います。そして本選出場者、みんな全然違う個性で、びっくりしました。点数自体も本当に競っていて、結構決めるのに時間がかかりました。第1回ヴィントゲンシュタイン記念・左手のピアノ国際コンクールの結果は、さぁ順位を発表させていただきます。まず3位は2人います。では3位。」

「瀬川泰代さん。そして早坂眞子さん。」


2位は、

「ガン・チャイキティワッタナさん」


そして1位は、

「高岡準(ひとし)さんになりました。おめでとうございます 。」


私はピアノも音楽も素人なのでよく分かりません。皆さんの演奏は、素晴らしかった。
ですが、なんといっても高岡さんが凄かった。

一音一音、惹きつける音の迫力。いつの間にか聞き入ってしまいました。左手とか関係なく、この人の演奏を聞いていたい、いつまでたってもこの人のピアノの世界に浸っていたい、演奏が終わらないでほしい、そう思いました。


発表を終えて、
ガンさん
「楽しんでできました。ベストを尽くせたので幸せです。」

1位の高岡さん
「僕にとっては今右手がちょっとしたアクシデントにある中、左手のための楽曲って本当に救いであるし、勉強のしがいがあって、探究心の対象でもある。だからこれからのピアノ人生において、一つのきっかけ。 少しでも向上心を持って臨みたいと思っているので、そのきっかけには間違いなくなるとなるだろうなと思っています。」


第3位を受賞した高3の早坂さん
「少し自信になりましたね。なんだろう。うぬぼれないで、頑張りたいです。」


そして表彰式が開かれました。アマチュア部門に参加した笙太さんも家族で来ていました。

審査委員長の智内さん
「アマチュア部門の次点として、入選という方も3名ほど選ばさせて頂きました。昨日ロビーの方で発表できなかったので、こちらの方でお名前だけ読み上げさせていただきます。1人目は鈴木笙太くん、はいらっしゃるかな?」

会場から拍手です。笙太さんは大賞まであと一歩。また一つ自信をつけることができました。

左手のピアノ曲と出会うことで、困難を乗り越え、ここで巡り会えたピアニストたち。 自分たちは一人ではない仲間がいる、その輪が左手のピアニストの世界を広げていきます。


ガンさんはコンクールの後、脳科学の研究者に演奏についてアドバイスをもらうことにしました。

ソニーコンピューターサイエンス研究所にて、リサーチャーである古屋晋一さんが登場。

古屋さん
「親指が内側に入らないように気を付けて。」

ピアノにつながれたコンピューターで弾き方を細かくデータ化し、右手に負担がかからない練習方法を探っていきました。

ガンさん
「コントロールできるように練習します。」

古屋さん
「君のベストポジションを見つけて、体の動かし方を知れば、君の演奏の助けになる。 それが一番大事なことだよ。」

ガンさん
「今の状況を残念に思うことはないと感じています。コンクールで智内先生はじめ、多くの人に出会えたから、今すごく前向きな気持ちなんです。辛いのは僕だけじゃないと分かったから。とても励まされ、やる気が出ました。」


瀬川さんは故郷の広島にいました。
被爆3世の瀬川さんは8月6日には帰国し、平和を祈るコンサートを行ってきました。ピアニストとして自分に何ができるのかその思いを今回新たにしました。

瀬川さん
「作曲家だったり、ピアニストが戦争や他の理由で、何かしらの痛みを抱えて、その中からできた作品というものも多いので。左手の曲はすごいエネルギーを持つものが多いと思うんです。でもそのエネルギーがあるからこそ、聞いている方に心を届けることができる。そういう音楽の力を持っていると思います。左手の曲のその希望の部分を、もっともっと表現したいなって思っています。本当に今、自分が歩んでる左手のピアニストとしての道っていうのは、自分自身の使命のように感じています。」

絶望に立ち向かい、表現の限界に挑むことで切り開かれた左手のピアノの世界。ピアニストたちは一音一音の重みを噛み締めながら生きる喜びを奏でています。


番組が終わって、参加者一人ひとりの紡ぎ出す1音1音がこんなに心に訴えかける音なのかと驚きました。
弾いている奏者自身ももちろんですが、また曲がどれも素晴らしくて。1位を受賞した高岡さんが弾いた『左手のためのシャコンヌ ニ短調』 JS バッハ作曲、ブラームス、ウィトゲンシュタイン編曲が今でも脳に焼きついて離れません。

高岡さんのコンサート、聞きに行きたい。今回も素晴らしいドキュメンタリーでした。

今回の参院選で「NHKをぶっつぶす!」が合言葉の『NHKから国民を守る党』が1議席獲得し、個人的には党首の立花さんのぶれない姿勢は大好きで毎回、政見放送を楽しみに見ていますが、こんなに良質なドキュメンタリーはNHKにしかつくれないので、ぶっつぶされても(実際にはNHKのスクランブル放送化を公約に挙げているだけ)ドキュメンタリー部門だけは残してほしい。あとEテレの子供向け番組も残してほしい。お願いします。


左手のピアノ国際コンクールの公式サイトには各コンテスタへの講評が載っております。ぜひ見てみてください。

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