2019年1月5日放送『もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~』(1)ファツィオリの調律師・越智 晃さん
- 2019.04.25
- コンクール関係
- もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~
番組ホームページより↓
2015年10月3日。秋に開かれたショパン国際ピアノコンクール。5年に1度、若手ピアニストたちがしのぎを削るスターへの登竜門だ。そして、コンクールで採用されたピアノメーカー4社にとっても世界にアピールする最高の舞台。どれだけ多くのピアニストに選んでもらえるか。優勝者を出すことができるか。今回、その命運を握る調律師たちのほとんどが日本人だった。しかし、彼らには次々と困難が襲いかかる。はたして栄冠をつかむのは誰か。
ってな感じで、めちゃくちゃおもしろかった!放送時間は110分だったけど、あっという間!
ピアノメーカー4社とは、
・スタインウェイ&サンズ(Steinway & Sons言わずとしれた世界トップを独走するアメリカのメーカー)、
・ヤマハ(YAMAHA・今や世界一の売り上げを誇る日本のメーカー)、
・カワイ(KAWAI・低音が魅力的な音を出す日本のメーカー)、
・ファツィオリ(FAZIORI・イタリアの新進気鋭のメーカー、恋するクラシックにも使われていましたね)。
過去の優勝者はほとんどスタインウェイ&サンズ。そしてそこに日本のメーカー、ヤマハとカワイが切り込みます。「日本など伝統のない国から輸入された楽器については、距離をおいて、疑いの目で見る人もいました。でも次第にヨーロッパでもその質の高さを認めるようになってきた」そうです。しかも4社のうち、ヤマハ、カワイ、ファツィオリの3社が日本人調律師。これは見ずにはいられません。
最初はイタリアの新進気鋭のメーカー、ファツィオリ(正式名称:ファツィオリ・ピアノフォルティ)に密着。ファツィオリは、ピアニストであるパオロ・ファツィオリ(イタリア人男性)が「理想のピアノの音」を追求してできたメーカーで、創立は1981年と、会社ができてから40年弱。
ピアノの素材にもこだわり、ピアノの木もヴァイオリンの銘、ストラディバリウスと同じ森から伐採したものです。弦をはじめ小さな部品まで自社生産。そのため年間120台しか製造できません。
7年前に創業者であるファツィオリさんが越智 晃(おち あきら)さんの調律したピアノを聞いて「100万人に1人の耳を持つ天才だ!」と直感。
「越智の音作りは本当に優れていて、均一で美しくて柔らかな音色。ピアノの音色を作り出す方法を彼は知っている」とファツィオリさん。
この越智 晃さん、子供の頃から機械いじりが好きで、調律に興味を持ったのは11歳のとき。自宅に調律師が来たとき、その緻密で繊細な作業の虜になりました。音楽大学の調律科を卒業後、憧れのスタインウェイに就職。若くして頭角をあらわし、他の調律師を指導する立場に。
そして越智さんが36歳のとき、ファツィオリのピアノに出会い、人生が変わりました。「透明感のある明るいピアノの音色に魅せられました。音に色が多かった。カラフルな音というか。それ以外にも音自体にすごく魅力があって、すごく惹かれた」とのこと。
そんな越智さん。ショパンコンクールに向けての音作り。
「ショパンの曲はポーランドの民族的なメロディーに影響されているし、やわらかな感じ。本当に温かみのある、色気のある艶っぽい音」をイメージ。
そして5日間にわたってのコンテスタによるピアノ選びを客席から見守ります。でも、なかなかファツィオリのピアノを長時間弾いてもらえない=ピアノを選んでもらえない。なぜなら他のメーカーのピアノは響きを重視し、豊かな音量が出る調律していたのです。
出場者達はファツィオリのピアノの音を「音が優しすぎる」「高音でぼやける感じ」と辛口の評価。ショパンコンクールに合わせてつくった音が選ばれず、予想もしない出来事に。他メーカーが派手な音なため、自然とそっちに流れていく。越智さんピンチ。このままでは誰ひとりとして選んでもらえない。
ちなみに会場は古い歴史あるホールなので、エレベーターなんてものはなく、グランドピアノを5人ぐらいで運びながら階段を上っていました。こんなん引越し業者なら運搬費用上乗せされるやん。
「3Fから3F。えっ?エレベーターないんですか?階段の広さはどれぐらい?まぁ、ピアノをタテにすればギリいけるかなぁ…」
落としたら一大事!世界のショパンコンクールなんだしさ、改修してエレベーター設置したげて!
話は戻って、越智さん「これはマズい」となり、念のため予備で持ってきていた、6月のチャイコフスキー国際コンクールで使われた派手めに響くアクションに切り替えることに。
「他のメーカーの音を聞いても意見は左右されないと思っていたけど、ここまで差が出ちゃうと…。やっぱり弾いてもらいたいので、それを考慮せずにはいられない」
コンクール会場に新しいアクションを持参して、古いアクションと入れ替える作業。現在時刻は深夜の1:45。割り当てられた時間は1時間45分なので、3:30までにすべての調整をしなければなりません。心臓部であるアクションを慎重に運びます。傷つければいっかんの終わり。見てるだけで過去の放送だし、関係者でもないけど心臓バクバク。そして最低限の調律で時間切れ。
翌日。ついにファツィオリを引き続けるピアニストが!そしてそのピアニストはファツィオリが選びました!
「鍵盤が気に入りました。重いタッチが好きなので」選んでくれたのは、中国人女性のティアン・ルーさん。旦那さんはピアニストのユーリ・シャドリンさん。
ちなみにこの旦那さん、2010年の前回のショパンコンクールに当時30歳で参加し、情感たっぷりの際立った演奏で、2次予選まで残りましたが、3次予選の当日に、高熱を発し、さらに手に違和感が。3次予選は、本選よりも長い曲を演奏しなければならず、手への負担を考えてリタイアしました。ショパンコンクールは16~30歳までと年齢制限があり、今回は年齢制限で出られないのです。でも今回は奥さんのティアンさんがコンクールに参加。ティアンさんの心強い味方ですね。
そしてファツィオリの練習室にあるピアノでティアンさんが練習。その練習用のピアノのタッチを細かくチェックして、コンクール本番用のピアノにしっかり再現できるように調整するのです。
そして越智さんも「1人しか選んでくれなかったけど、逆に1人にしか選ばれていないから、彼女が求めている音に調律できる。オーダーメイドのピアノの音ですね」と。
そしてティアンさんが「ファツィオリのピアノの音は性格を持っていて、でも最後ワッと弾いたときにオーケストラのような響きを出してくれる」と言ってくれたそうで。この言葉に越智さんは泣いちゃうぐらい嬉しかったそうです。この人はファツィオリのピアノの音をすごく理解してくれている!と。
「77人の人に選ばれずに理解してもらえなくても、ファツィオリの音の真髄を1人がちゃんと理解してくれた。それだけで嬉しい」と。1人だけでもこんな素敵な言葉を言われたら嬉しいですよね。「僕ができるのは彼女の演奏でより多くの人が感動できるように調律するだけ。そのためなら寝ないで仕事します」
そして本番の前夜、ティアンさんが気に入っていた練習用のピアノのタッチや音色を本番用のピアノに再現する調律作業をします。
本番直前の調律の時間は14:50~15:40。越智さん、時間がないけど何とか頑張って調整終了。
そして1次予選当日。私はピアノにはまったく疎いけど、彼女が弾いたピアノの音が、なんだか心に染み渡る感じがしました。彼女は有名なコンテスタでもないし、有力候補でもないし。
スタイリングも上は黒のニット、下は黒のスカートでいたってシンプル。髪も無造作に三つ編みに束ねてあるだけ。曲も技巧的で速い曲ではなかったけど、それでも紡ぎ出されるメロディーから、彼女の音楽に対する素直さや、ショパンの内面にまで掘り下げたような深い表現の音に聞こえました。完全に彼女がつくりあげたショパンの世界に惹き込まれた感じ。
はぁ、ピアノって素敵…、と思った瞬間でした。
結果は1次予選で敗退だったけど、もし彼女が日本で弾く機会があれば聞きに行きたい、そう思わせる唯一無二の彼女にしか出せない素敵なショパンでした。私はまだファツィオリの音を聞いたことがないのですが、いつか越智さんが調律したファツィオリのピアノの音を聞いてみたいな。
やっぱりドキュメンタリーはNHKに限るわ。作り込みがちゃんとしてる。一時期、ヤラセ問題とかあったけど、これに限ってはヤラセができないからね。
これでとりあえず終わり。長いので明日に続きます。
ちなみに2019年4月29日(月) 午前9時00分~ BS1で再放送されます。見てみて!めっちゃ面白いから!毎回、ショパンコンクールの調律師さんに密着してほしい!
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