2019年4月28日放送。ショパン・時空の旅人たち5 (2018年ショパン国際ピリオド楽器コンクール)『一次審査開始。そして結果発表』
- 2019.06.22
- コンクール関係
- ショパン・時空の旅人たち (2018年ショパン国際ピリオド楽器コンクール)
審査は3日間30名の出場者によって競われます。課題曲は定番のエチュードやバラードに加え、10代の頃に書かれた作品や、ショパンが影響を受けたバッハの曲など、他の作曲家の作品も含まれます。審査は『ショパンの音楽のより深い解釈』と『フォルテピアノの可能性がいかに引き出されてるか』が焦点になります。
審査員のトビアス・コッホさん
「我々にできるのは我々の解釈を表現することだけですが、それこそが最も重要なこと。求めるのは決して完璧さではなく演奏者の人となりです。現代を生きる演奏者が今何を伝えたいのか。」
そしていよいよ本番を迎えた川口成彦さん。フォルテピアノの世界で演奏してきた自分にしか弾けない音を響かせたい。
「僕にとって古楽器の魅力って弱音(じゃくおん)なんですよ。弱いといってもしっかり芯のある、しっかり心臓のある、血の流れた美しい音。ショパンは多分それを愛していた。」
「古楽器の演奏者として、楽器の魅力を最大限に表現したい。そうすればショパンというものが浮かび上がってくると思うんです。」
そして川口さんの演奏が始まります。選曲はショパンが10代の頃に書いた『ポロネーズ第9番 変ロ長調作品71第2』使用するフォルテピアノはブッフホルツ。音色が変わるピアノモデレーターがついたピアノです。曲の終盤、ペダルで音色を変え 郷愁を誘う聴かせどころ。そして川口さんはブッフホルツと他二つのピアノを弾きこなし、演奏を終えました。
「まあいろいろあったけど、それも想定内なので、良かったんじゃないか。今日こういう大きな会場になった時に、この楽器こんなに鳴ってくれるんだって。だからショパンの気づきと言うか、場所変わるだけでこんなに音が変わるんだなって。もっと遠くに届けたいと思って弾いた。それは新しい発見だったかもしれないです。」
そして川口さんに続くのは、優勝候補の一人クリントンさん。持ち味のダイナミックで力強い表現だけでなく、豊かな叙情性で物語を紡ぎたい。選んだのは愛の破局に悩んだ晩年の名作、『舟唄 嬰へ長調作品60』使用するのはプレイエル。無事に演奏を終えます。
そしてシジャさんの出番。幼い頃から自分を慰めてくれたショパンへの思いを力の限り観客に届けたい。選んだ曲は『バラード第3番変イ長調作品47』情熱的で優雅な叙情詩を力強さと繊細さを併せ持つエラールで奏でます。
演奏後、
「自分としては上出来だったと思います。唯一心配なのは音量が足りなかったかもしれないことです。観客や審査員にどれだけ音が届いていたかわかりません。」
一方、シジャさんを年間見守ってきたルトコフスキ教授は
「とても想像的な演奏しました。ただ唯一気がかりな点は音が硬すぎた。彼女は非常に感情を表に出す演奏していましたが、そのぶん自分の音をきちんと聞けていなかった。」
そして第一次審査結果発表。次に進めるのは30名中15名。クリントンさんは部屋で発表を待つと言います。
合格者がアルファベット順に読み上げられ、川口さん無事通過。クリントンさんも無事に通過。
でもシジャさんの名前が呼ばれることはなかった。結果発表後、シジャさんにインタビューをしようとするけど
「今は話したくありません。」
そりゃそうだ。ショックで悲しくて何も言えないよ。
翌朝、シジャさんに改めて聞くことに。
「これは私の人生であり、私の決断によって生まれた結果であり 、それを巻き戻すことはできないので、受け入れるしかないと思います。フォルテピアノは続けます。さらに何か新たな発見があるかもしれないし、それによって新たな世界への扉が開けるかもしれないもの。」
フォルテピアノから得た大きな経験を糧に また修練の日々が始まります。
そして一次審査で審査員や聴衆の度肝を抜く演奏をした出場者が現れました。それは地元ポーランドの若手実力ナンバーワン クシシュトフ・クションジェクさん。26歳。参加者の中で唯一インタビューに応じません。
いいのよ、いいのよ。応じなくて。自分が集中できる環境が一番だからね。そうやって取材を受けて、集中できなかったら一番困るから。と思うと、浜松国際での牛田智大くんはよく取材を引き受けたなぁと改めて思います。
ショパンを生んだ国の優勝候補も混じえ、怒涛の二次審査が始まります。さぁ川口さん、クリントンさんはどうなる?
そして、そこに立ちはだかるのはショパン生んだ地元ポーランドの強豪。彼らにとっても優勝は悲願です。果たして勝負の行方は?
明日に続きます。
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