2019年1月5日放送『もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~』(3)ヤマハの調律師・花岡昌範さん、そしてスタインウェイの壁

最後はヤマハ。今回ヤマハは大躍進をし、1次予選の参加者78人中、半数にあたる36人がヤマハを選びました。今回、ヤマハは腕利きの調律師チームをショパンコンクールに送りこみ、ピアノもショパンコンクールのために制作された1台。豊かな音量を持つピアノです。

そんなヤマハの調律を担当するのは花岡昌範さん。社内でもトップクラスの腕でを持ち、今回は「心を震わせる音色を大事に。その音を出せるようにチーム一丸となって取り組みます」音の響きを重視した作戦で、2年前から会議。そしてその取り組みが実を結び、今回の大躍進に繋がりました。

でもここに至るまでの道のりはけっして平坦なものではありませんでした。ヤマハが初めてショパンコンクールに参加したのは1985年。当時、日本では有名だったけどクラシックの本場で、なかなか後発メーカーは受け入れられずショパンコンクールでも選んでもらえず。それでも30年にわたって西洋の厚い壁に挑戦し続けました。

ヤマハのポーランド支店長である田所武寛さんがいいます。
「こちらからアクションをかけないと、なかなか選んでもらえないのが実情。とくにポーランドでは。でも名だたるピアニストや音大の教授にお願いして、少しでも弾いてみてくださいと頼み込んだ。実際に触ってもらうと、ヤマハけっこういいね、って言ってくれる人が増えてきた」

そんな地道な営業努力が実を結び、今や世界一の売り上げを誇るピアノメーカーに。そして今回、参加ピアニストが宿泊してるホテルの各部屋に電子ピアノを貸し出し。その数なんと80台!太っ腹!少しでも身近に感じてもらうよう、ヤマハが取った作戦です。私みたいに送料とか運搬費用とかそんな野暮なことは言わないのです。

1次予選では半数の36人が選び、ファイナルでは進んだ10人のうち、ヤマハのピアノを選んだのはなんと7人!チームヤマハの面々もこれにはホクホク。その夜の飲み会では「刑務所の壁のように高く乗り越えられなかった壁が崩れてきた。入社していちばん美味しいビールです」

もちろんヤマハもファイナルで1位をとりたい。そんなヤマハの花岡さんが期待を寄せるのが、カナダのシャルル・リシャール・アムランさん。元々、前評判は高くなく大きなコンクールもほぼはじめて。でもあれよあれよという間にファイナルまで進んで、今や優勝候補の一角。アムランさんは「ヤマハのピアノはクセがないので、自分の個性を100%出せる。ピアノからは温かな音色がするしね」

そしてもう一人ヤマハを選んだファイナリスト、カナダのイーケ・トニー・ヤンさん。なんと普通高校に通う16歳。腕試しで参加したつもりがなんとファイナルまで進出。弾いている姿を見ると、体が揺れるし感情表現が豊か。「ヤマハのピアノは音がコントロールしやすくて、表現したいように演奏できる」

そんな初優勝を狙うヤマハに立ちはだかるのは、みなさんご存知スタインウェイ&サンズ。これまでにショパンコンクールで数々の優勝者を輩出してきました。スタインウェイは1853年に創業したアメリカとドイツに本拠地を持つ世界的なピアノメーカー。伝統と格式を誇り、現在のピアノ製造法を確立。その特許数はなんと127!年間生産台数も3000台とピアノの王様といわれています。

スタインウェイの調律師はヤロスワフ・ベドゥナルスキさん。なんとポーランド人!しかも会場のホールの専属調律師!ハンデが過ぎやしませんかね。調律師のヤロスワフさん「スタインウェイのピアノは普遍的な音で、ショパンやバッハなどどんな曲にでも合う。あとはピアニスト次第」ってすごい自信!ちょっと太刀打ち出来なさそうなんで、鍵盤を10個ぐらい外すてのはどうですかね?ってお願いしたいぐらい圧倒的な自信!

そんなスタインウェイを選んだファイナリスト、韓国のチョ・ソンジンさん。1次予選から完成度の高い演奏で聴衆を魅了し、優勝候補筆頭です。

そしてファイナルに残った10人が選んだピアノはヤマハ7人、スタインウェイ3人。

ヤマハを7人が選びました。でもここで問題が。7人のファイナリストに選ばれたものの「それぞれの要望を叶える調律は難しい。演奏ごとに細かい調律は出来ないので、誰かに合わせると誰かが困る。バランスが難しい」のです。

花岡さん、毎晩部屋に戻ると、Youtubeでその日の演奏を聞きます。そしてファイナリストに残ったピアニストの1次予選から3次予選までの演奏を確認。「3つの予選を通してヤマハを選んでくれたファイナリストすべての演奏を聞いて、どの調律がベストなのかを考える。ネットの音は生音ではないけれど、それぞれの特徴が強調して聞こえるので」

演奏をチェック後、ファイナル前日のコンクール会場で最後の調律。

最近は海外の名だたるコンクールでもライブ配信が増えてきましたよね。去年の浜松国際ピアノコンクールでもその方式でした。しかも結果発表もライブで。日本の有名なコンクールもそろそろ審査方式も含めもっとオープンにしてもいいのではないでしょうか(点数とか結果を見るとかなり怪しいときもある)?日本音コンや学生音コンなど、行きたくてもチェロ部門は平日の昼とかなので、どうやっても行けないんですよね。公式撮影しか認められず、参加者ですらビデオ撮影は禁止だし、どんなにいい演奏をしても自分の手元には残らない。せめて家族など関係者だけでも撮影できるようにしてほしい。公式チャンネルがあって、いつでもネットで見られるってのはいいですよね。いずれそうなるかな。

そしてファイナル直前、ヤマハからスタインウェイに乗り換えるファイナリストが。変更したのはアメリカのケイト・リュウさん。2017年に来日する予定で私もコンサートに行こうかなと思っていたのですが、怪我のため公演は中止に。ランランもこの間、怪我で公演中止になりましたが、ピアニストはめちゃくちゃ練習するので怪我もつきもの。大変です。そんなケイトさん「ソロではヤマハのほうがよかった。でもファイナルはオーケストラと共演するのでより力強く演奏しないといけない。スタインウェイのほうが明るい音だし、力をあまり入れなくてもいいと思った」

そして早速、チームスタインウェイとケイトさんがミーティング。「小林愛美さんの次だからピアノを調整してあげられる時間がない」「大丈夫。私がピアノに合わせます」ケイトさん、超かっこいい。一度でいいから10万円ぐらいのチェロの前で言ってみたい。「私がチェロに合わせます」

そしてさらに追加でヤマハからスタインウェイに乗り換えるファイナリストが1人。これで7:3から5:5に。ヤマハの花岡さん、さすがに落ち込みます。「このピアノはすごい!と言われるようなものをつくらなければ。そうしたら変更されることもない。そこの王道を突き進んでやっていくしかない」

そしていよいよファイナル。

それぞれの演奏が流れます。個人的にはカナダのアムランさんの演奏に惹かれました。自然体というか力がいい感じで抜けていて音楽をコンクールを楽しんでいるような。調べたら2018年に演奏で来日されていたんですね!バカバカ自分のバカ!ボーッと生きてんじゃないよ!行きたかったよ!

そして結果発表。

第6位ドミトリー・シシュキン (ロシア)ヤマハ。

第5位イック・トニー・ヤン(カナダ)ヤマハ。

第4位エリック・ルー(アメリカ)スタインウェイ。

第3位 ケイト・リュウ(アメリカ)スタインウェイ。

そして…、

第2位 シャルル・リシャール=アムラン(カナダ)ヤマハ!

第1位 チョ・ソンジン(韓国)スタインウェイ!


韓国のチョ・ソンジンさんが優勝!最近、ピアノでもヴァイオリンでも韓国勢の躍進がすごいですよね。


そして1ヶ月の長い闘いに幕が下ります。花岡さん「長いようで短いような。色んな意味でわれわれも勉強になった。これからもっといい楽器を作っていこうという気持ちになりました。さらに頑張ってやっていこうと思います」

そしてリベンジは5年後の2020年(来年じゃないの!)。期待しています!

ちなみに2019年4月29日(月) 午前9時00分~ BS1で再放送されます。次の2020年大会にも密着してほしい。NHKドキュメンタリーすごい!素晴らしいよ。

こちらもよろしくお願いします↓

にほんブログ村 クラシックブログ チェロへ
にほんブログ村
     

同一カテゴリの記事一覧

コンクール関係 の記事