2019年4月28日放送。ショパン・時空の旅人たち3 (2018年ショパン国際ピリオド楽器コンクール)『古楽器に触れたときに自分の可能性が生まれた。川口成彦さん』
- 2019.06.20
- コンクール関係
- ショパン・時空の旅人たち (2018年ショパン国際ピリオド楽器コンクール)
ショパンが神童と呼ばれた少年時代から親しんで弾いてたのが、地元ワルシャワのピアノのブッフホルツ。ペダルで音色が変えられる遊び心のある1台。現存の物で、演奏に耐え得るものがないので、時間をかけて再現されました。
ワルシャワで名を馳せたショパンは、やがてウィーンでも成功を収め、世界に活躍の場を移します。
そして21歳の時、フランスのパリでエラールという高い機能性を誇るフォルテピアノに出会います。そして同じくパリで出会い、死ぬまで愛し続けた1台があります。それがプレイエル。演奏者の心が、そのまま鍵盤の音へと繋がるような繊細なタッチのピアノ。香り立つような音色が魅力です。
そしてその5台のピアノを一つ一つ味わい尽くすように弾く出場者がいました。
川口成彦さん、29歳。フォルテピアノ歴10年の演奏家です。規定として使える最大数3台のピアノを全て使います。
「エラールは僕にとって自信たっぷりの健康な男の人で、少し威張っている雰囲気を持っている。でも実はちょっと繊細な部分もあって。」
「プレイエルは気品があって、当時のパリで言ったら上流階級の人。なんだけど、ちょっと自信がなくて、しょんぼりしてる感じ。でも『きっとあの人いい人だよ』ってみんなに思わせるような1台。」
川口さん、ピアノの音を擬人化。艦コレや刀剣乱舞みたいな。わかりやすい。楽器の擬人化アニメもいいかも。
「演奏者は自分自身と、楽器、そして聞いてくれる人をみんな仲良しに結びつける雰囲気を作らないといけない。その人の魅力探しですよね。楽器選びって。」
川口さんは2年前の2016年、古楽器の登竜門であるブルージュ国際古楽コンクール・フォルテピアノ部門で最高位を獲得しています。
古楽器の聖地と言われるオランダ・アムステルダム。川口さんは、3年前に古楽を勉強するために留学し、今は演奏者としても活動しています。昨日のフォルテピアノ修復家・エドウィンさんもオランダに工房をお持ちでしたが、オランダは古楽器の聖地なんですね。知らなかった。
川口さんがやってきたのは、市内にある教会。学生時代から今も自由に出入りができる練習場所です。前回の博物館といい、音楽に理解のある環境で素晴らしい。
ちなみにここは博物館の倉庫も兼ねており、国も年代も違うフォルテピアノが20台あります。演奏会で使われるものもあるけど、ほとんどが修復前のもの。映像では鍵盤が欠けたものが映っていました。
川口さんが今一番気に入っているのがウィーンのフォルテピアノ。ペダルは何と5個も付いています。その一つのペダルを踏むと中に内蔵されている鈴が「チリンチリン」と鳴ります。ピアノを弾きながら、打楽器の役割も自分でできる。楽しい。子供に弾かせたら、絶対に遊ぶ。ピアノ弾かずに、永遠に「チリンチリン」するわ。これは19世紀初期につくられたウィーンのピアノの特徴で、当時こういった遊び心に溢れている楽器がたくさんあったそうです。
そしてもう一つのお気に入りのピアノにはモデレーターがついていて、ペダルを踏むと柔らかな音色に変わります。
「人の声に近い。よく聞くと、いろんな音が聞こえてくる。」
川口さんは、このフォルテピアノによって人生が救われたと言います。
「僕がフォルテピアノに惹かれる理由は音色が多彩なこと。同じピアノでも、こんなにたくさんの音色がある。その瞬間にすごく嬉しくなったんです。この古い楽器に触れたときに『まだ僕にも可能性があるな』と思って。」
「つまり絵の具がいっぱい手に入った感じ。今まで少ない数の絵の具しか持っていなかったけれど、ピリオド楽器に触れた瞬間にたくさんの絵の具が手に入ったような。僕が画家だったら、それは浮かれますよね。」
川口さんは、1989年岩手県生まれ。ピアノが大好きで、誰よりも夢中になって弾いていた少年時代。
でもピアニストなんて夢のまた夢。将来を見据えて、中間一貫校の進学校に入学しました。そしてピアノは習い事として続ける程度。でも川口さん頭の片隅では『ピアニストになりたい』と。
「だけど僕の当時の能力では、ピアノ科を目指す勇気がなかった。」
そんな時、東京藝術大学に学理科というコースがあることを知ります。そこは音楽研究が専門ながらも、多くの有名ピアニストを輩出しているユニークな学科。
「自分がピアニストになれる道はこれしかない。」
そして川口さんは東京藝術大学・楽理科に入学。その授業の一環でフォルテピアノと出会い、一気にのめり込んでいきました。
フォルテピアノのキャリアは10年。コンクールではその知識と経験を最大限に活かしたいところ。
鍵となる曲がショパンが10代の頃に作曲した『ポロネーズ第9番作品71第2』です。
川口さんは曲中に何度も繰り返されるテーマで、モデレーターを使う作戦。
「お客さんも、ちょっと飽きてきた最後のところで使おうかなと。」
「自分の目に見えている現実世界とは違った世界を僕はフォルテピアノに感じています。例えばペダルを動かすこのシーンでは、キラキラしたように感じる。でも今現在のキラキラじゃなくて、遠い昔に見た海辺の水の反射のキラキラ。なんかそれを想像するだけで涙出てきませんか?」
そうです。昔の思い出って何であんなに涙が出そうになるんでしょうかね。私の場合はたぶん歳のせいかな。赤ちゃんの出産シーンとか見ただけで泣いてしまう。
「多分、モダンピアノでやっていくってなったら、僕は量産型や没個性と言われるピアニストの一人にしか過ぎなかったと思う。自分というオリジナリティを確立させてくれたフォルテピアノや古楽器の世界には本当に感謝をしている。」
他のフォルテピアノのコンクールで、すでに最高位を獲得している川口さん。
さて今回の2018年ショパン国際ピリオド楽器コンクールでは、いったいどういった結果になるのか。
続きはまた明日。
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