2019年4月30日放送。私は左手のピアニスト(4) 第1回 左手のピアノ国際コンクール『右手に続き、左手もジストニアに…。長内一真さん』
会場で演奏にじっと耳を済ましている出場者がいました。長内一真(おさない かずま)さん、28歳です。
長内さんもジストニアと診断され、このコンクールに再起をかけています。
音楽大学に通っていた時から住み続けている都内のワンルーム。現在、福祉関係の仕事をしていて、毎日帰宅は夜8時。そこからの数時間を全てコンクールのために費やしていました。
電子レンジで買ってきたお弁当を温める長内さん。
ディレクター
「夜はお弁当が多いんですか?」
長内さん
「最近、もうコンクールの一か月前だし、作ってる時間が惜しいかなと思って。練習しないと間に合わない。」
大学3年の頃、右手に違和感があったものの演奏家の道へ。原因を知りたいと右手にメスも入れました。右手の甲にある大きな傷が映し出されます。
長内さん
「絶望したかもしれないです。弾きたい曲が弾けないというその気持ちが一番つらかったかな。」
右手の違和感は拭えず、今度は左手の演奏に力を注ぎます。そして演奏会では難しい曲も弾きこなしました。ところが。
長内さん
「昨年のリサイタルで左手だけのプログラムを初めてやった時に、結構攻めた内容のプログラムをしたもので。だいぶ酷使したんでしょうね。左手もちょっと調子を悪くして。お医者さんからジストニアだっていうこと言われたので、ちょっと一回距離を置こうと思って。もう終わったなと思いましたけども。」
ピアノは封印し、全く新しい仕事を始めました。しかし2ヶ月後、無性にピアノが弾きたくなり、左手のリハビリから始めました。
長内さん
「普通にドレミファソすらろくに弾けなかったので、去年の頃。指がうまく動かなくて、そこから始めました。ドレミファソ、指を曲げる筋肉を使う、それだけの練習。曲げる筋肉以外はあんま使わないとか、また一からやり直すっていう作業。今やっているところなんですけど。ピアノをやってない自分って本当に何者なのかわからないですね。」
どんな状況になっても、自分が思う美しい音楽を追求したい長内さん。そしてコンクール予選の場面です。
演奏はタイのガンさんと同じ。
スクリャービン作曲、幻想曲と夜想曲作品9。
長内さんはこの曲と出会い、左手だけでも素晴らしい表現ができると実感。演奏家の道を諦めるのはまだ早いと思わせてくれた曲です。
そしてプロフェッショナル部門予選通過者の発表です。
審査委員長の智内威雄(ちない たけお)さん
「まずは皆さんお疲れ様でした。本選出場者5名ぐらいと考えていたんですけれども、あまりにも素晴らしかったので1名追加して、6名が本選に進むことになります。」
「通過者は高岡準(たかおか ひとし)さん、瀬川泰代(せがわ やすよ)さん、早坂眞子(はやさか まこ)さん。」
10代の高校生、早坂さんが本選に残りました。
「…最後6人目、ガンさん。以上です。」
瀬川さん、ガンさん2人とも本選出場を決めました。
長内さんはコンクールを終えた後も、夜はピアノと過ごしています。
長内さん
「自分のやりたいことがやれなかったのがすごく悔しいですね。やりたい演奏ができないというのは。どうしてもまだ言うこと聞かない部分もあるので。なんとかしなきゃいけないところで、出したい音が出せないという。そこが一番悔しいところですね。 まだまだリハビリを続けたいと思います。今回コンクールに出て、久しぶりにちゃんと人前で弾いて。やっぱり面白いなぁっていうところが一番ですね。あと他の方の演奏を聴いて、面白いなって思って。」
今年(コンクールは2018年11月に開催されました)、演奏会を開くのが目標になりました。
長内さんのスクリャービン、私はすごく好きでした。柔らかい音の中にも芯があって、すごく奥行きがあって。
コンクール後に長内さんが自宅で弾いていたショパンのノクターンもすごく切ないけど、いい音で。
続きはまた明日。
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