2019年4月30日放送 スラム街 希望のオーケストラ(1)『子どもたちは音楽に願いを託す』
- 2019.10.08
- ドキュメンタリー
- スラム街・希望のオーケストラ
語りは三上博史さん。全2回です。それでは行きますよ。
子どもたちは音楽に願いを託す。
フィリピンのセブ島のスラム街。子供達は家計を助けるために働いている。半数が小学校さえ通い続けることができない。街の一角に子供達が集まる場所がある。夕方になると元気な声が溢れる。子供達が取り出したのは使い込まれた楽器。重い楽器を大事そうに抱えて運ぶ。
スラム街の楽団『セブンスピリット・オーケストラ』の練習が始まるのだ。
(画面にはヴァイオリン、チェロケース、サックス、トランペット、ホルン、トロンボーン、フルート、クラリネット、ドラムが映し出されています)
一年で最も大切なクリスマスコンサートに向け練習する。演奏する間は厳しい現実から一時離れることができる。
オケ団員の少年
「ここに来たら悲しいことも忘れられるんだ。ハッピーにしてくれる場所だからね。」
オーケストラを結成した大阪府出身の永田正彰(ながた まさあき)さん33歳。
音楽を通じて子供たちを笑顔にしようと海を渡った。
永田さん
「すごい可能性があるなと感じた。子供たちの変化からいろいろ見させてもらって、すごいなとか、変化を日々楽しんでいる。」
美しい海岸が広がるフィリピン中部のセブ。地上の楽園と呼ばれ、世界中から年間400万人が訪れる。ところが車で15分も走ると景色は一変する。違法に建てられたバラックのスラム街が広がる。ほとんどの家にガスや水道は通っていない。
観光以外にめぼしい産業がないセブ。5人に1人は失業者と言われている。
スラム街のオーケストラを率いる永田正彰さん。6年前セブ島で貧しい子供を支援するNPOの活動としてオーケストラを立ち上げた。週6日のレッスンは無料。
楽器は全て寄付による中古品でまかなっている。カメラに映るのはサビたトロンボーンやトランペット。永田さんが日本全国にある2000の学校やオーケストラに呼びかけて集めた。
永田さん
「音楽をいろんな人に平等にと言うか、誰でもやりたい人は参加できるような環境がここで作れたらいいなと思って。」
今オーケストラには7歳から19歳の40人が参加している。練習に毎日欠かさず来る女の子がいた。ニコル・バヤさん15歳。担当するのはオーケストラの花形、フルートだ。
ニコルさん
「高音のレはどうやって出すの?」
仲間の団員からアドバイスを受けます。
ニコルには自分の演奏を聞いてもらいたいある人がいる。
姉と二人姉妹のニコル。住まいは狭い路地裏にある古い建物だ。帰宅すると愚痴や悩み事を祖母に聞いてもらう。
ニコルさん
「おばあちゃん。私ストレートパーマをかけたい。」
おばあちゃん
「髪の毛に色々してるから。頻繁に髪を切ってるじゃない。」
ニコルの家に両親はいない。父は3歳の時に病死。母は家族を養うため8年前から中東クウェートに出稼ぎに行っている。ニコルが演奏を聞かせたいのは普段会うことができない母だ。母はクリスマスコンサートの日、三年ぶりに帰国する。
ニコルさん
「お母さんは責任感が強いんです。物事には責任を持ちなさいと、口酸っぱく教えられました。お母さんに教わった通り、責任感がある人になりたい。」
母に練習の成果を見せたいとニコルは再会の日を楽しみにしている。
練習に通えない男の子。
スラム街のオーケストラには練習に思うように通えない子供もいる。リアン・ノコスくん13歳だ。リアンが練習に通えるのは多くても週2日。理由は家庭にある。リアンは母と幼い3人の兄弟と一緒に暮らしている。父はいない。半年前突然家を出て行ってしまったのだ。
お母さん
「麻薬のせいよ。あの男は子供の前でやり方を見せていたのよ。本当に辛くて、我慢できなかったわ。」
リアンは働きに出た母に代わって、兄弟の世話や家事を引き受けている。母の仕事が休みの時だけオーケストラの練習に行く。
リアンくん
「お父さんがいて家族が一緒だった頃は幸せだった。今はお父さんがいないから大変なんだ。」
オーケストラの中でリアンはトランペットを担当している。この日まわりの演奏についていけず何度も手が止まっていた。練習時間が足りず演奏できない曲があったのだ 。
リアンくん
「もっともっと練習しなきゃいけないんだ。うまく演奏できるように。」
リアンのように練習に通いたくても通えず辞めていく子供も少なくない。
子供たちに笑顔を。海を渡った日本人音楽家。
オーケストラで子供たちを教える永田さんは6年前、日本の大学職員をやめてセブに移住した。NPO の同僚二人と一緒に古いアパートで暮らしている。月給はおよそ8万円。日本で働いてた時の1/3にも満たない。永田さんがセブに来たのは音楽を通じて自分にできることがあると考えたからだ。中学の部活動でトロンボーンに出会った永田さん。演奏を褒められたことで自信を持ち、プロの演奏家を志した。大阪の音楽大学を卒業後、オーケストラ入団を希望したが募集はなく、音楽の道を諦めざるを得なかった。
転機は27歳の時、市民楽団でセブを訪問。 スラム街の子供達に大歓迎されたのだ。自分の力で子供たちを笑顔にできるのではないかと考え、迷いながらも決断した。
永田さん
「フィリピンに行って可能性を感じたんだと思う。各家庭の事は私が解決できるかって言うと、できないと思うんですね。だけど何か生きる力をつけられるきっかけは見せられるかもしれないと思って。」
しかしセブで子供達に音楽を教える道のりは平坦ではなかった。この日向かったのはセブ最大のゴミの集積場。ここで永田さんは音楽教室を開いている。周辺にはスラム街の中でも特に貧しい人たちが暮らしている。
生きるため学校に通わずゴミ拾いをする子供も少なくない。炎天下でお金に変えられるものを必死に探す毎日。朝から晩までペットボトルを集めても、わずか10円しか得られない。音楽を演奏することが生活の役に立つのか疑問の声もあった。それでも週2日、永田さんはここに通い続けている。
この日はゴミ拾いを中断して、子供たちが集まっていた。教えるのはリコーダーや鍵盤ハーモニカ。幼い子や初心者でも演奏できるようにした。曲も子供達が親しみやすいよう永田さんが独自にアレンジしている 。
参加している子供
「楽しいです。だって音楽を習って、友達がたくさんできたから。以前は人見知りだったけど、今は自信を持つことができました。」
徐々に参加する子供も増えてきた。永田さんは手応えを感じている。
永田さん
「娯楽とか楽しみがないと思うので、より集中力というか音楽やってる時の熱中度合いが違う。子供達もすごく音楽に熱中しているのを見ていると、エネルギーを感じて、自分自身も力をもらっています。」
ゴミ集積場にいた子どもたちへのレッスンで、第九の『歓喜の歌』をピアニカという編成でしたが、子供たちの出す音からも「この時間はいろんなことを忘れて楽しいことができる」という気持ちが伝わって、まさに音に喜びがあふれていたんですよね。思わず涙腺崩壊しました。明日に続きます。
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