2019年7月1日放送『最高の音響を求めて。シューボックスかワインヤードか』(2) どのホールの音響がいいのか数値をはかる実験。

昨日からの続きです。


劇場の始まりはバロック時代。最初は宮廷の広間で出し物が演じられた 。

17世紀、イタリアで初めて歌劇場が建てられる。音楽ホールの建設は19世紀後半からだ。プロの楽団ができたことで、音響への要求も高まった。

成功例がウィーンの楽友協会だ。1870年にオープンし、今も世界一のホールと言われる。
1963年に建てられたベルリンのフィルハーモニーは、初のワインヤード型。葡萄畑のような階段状の客席が舞台を囲む形で、伝統的なシューボックス型より民主主義的な構造だ。どこの席からも舞台がよく見える。

音響的にはどちらが良いのだろうか。意見は様々だ。


ここでN響の首席指揮者、パーヴォ・ヤルヴィさんが登場。

ヤルヴィさん
「良いホールとは、実際の音以上に響きを良くしてくれるホールです。楽友協会でオケの音が一層素晴らしく聴こえるのは、ホールが響きをよくするからです。なぜそうできるのか。音響とは空間の魔法のようなもので、皆がその魔法にかかるのは確かですが、もう少し複雑で心理的な要因もあります。」

指揮者のアラン・ギルバートさん
「ホールはまず見た目です。その雰囲気や様式感、照明の美しさや温かい感じなどは重要です。そしてもちろん音響です。」

ベルリンフィルハーモニーが今も画期的な建物なのはまずその姿が目を引く。身体視覚的要素が聴覚に影響することは、音響実験でも証明されている。ホールの広さや形色、照明。目も音を聞くのだ。

音響設計家ユルゲン・マイアさん
「空間や色彩も重要な役割を果たします。 視覚的なもので音の印象が変わるのです。カラヤンはベルリンフィルの低音の厚みに不満を感じ、コントラバスに強めの照明を当てた。効果は十分にありました。」


シューボックス型かワインヤード型か。

ホール作りはその決断から始まる。

音響設計家のマイアさん
「後から手を加えても響きは改善しません。重要なのは基本構造です。1960年代には六角形のホールが人気でした。音の反射は早いほど良いと考えたからです。天井反射ならどの席にも同時に音が届く。しかし大事なのは側面の反射だとわかりました。上から来る音は両耳で同時に捉えますが、横からの音は左右で聞くので立体的に聞こえるのです。」

同じベルリンにバレンボイムさんの夢のホールが立った。ピエール・ブーレーズ・ホールだ。建築家フランク・ゲイリーの設計による700席弱のホールで、音響設計は豊田さんが手掛けた。必要に応じて、座席の配置が変わり、観客はさまざまな視聴体験ができる。

指揮者のダニエル・バレンボイムさんが豊田さんに尋ねます。
「音を良くしたの?音を悪くしたの?」

豊田さん
「どう感じますか?」

バレンボイムさん
「素晴らしいに決まってる。建物のデザインと音の響きがあっているね。」

豊田さん
「音楽もです。」

バレンボイムさん
「その通りだ。」

バレンボイムさん
「どんなホールにも二つのコミュニティが存在する。舞台上のコミュニティと客側のコミュニティ。互いに近づきたいんだ。 我々は最後の列まで音を届けたいし、観客は演奏者に近づきたい。でもこのホールの形なら皆が一つになれる。他のホールにはない一体感を味わえる。」

ここの基本構造はワイヤード型の進化系だ。 円形劇場のように出演者が中央にいて、高さのない舞台を客席が取り囲む。

親密度は非常に高いが、音響的には挑戦だった。

豊田さん
「純粋に物理学的な意味で難しかったのは、バルコニーの形状です。建築家のゲイリー氏が取り入れたもので、美しいデザインですが、この楕円形には苦労しました。 凹面を持った楕円は、音響的に厄介な現象を引き起こします。音が収束しやすいのです。これはマイナス要素になるので、そうした問題を解決する必要がありました。」


どのホールにも独自の響きがある。その違いは機械の数値で示せるが、実際にはどう聞こえるのか実験してみよう。

ベルリンの三つのホールで同じマイクを使って録音をする。

ここでチェリストのアナスタシア・コベキナさんが登場。バッハの無伴奏チェロ組曲第1番プレリュードを弾きます。

おぉ、まさかのチェロが選ばれた。


会場はコンツェルトハウスと、カラヤンが好んで録音に用いたイエス・キリスト教会、そしてフィルハーモニーだ。

コベキナさんが弾きます。

音の違いは高精度のモニターとヘッドホンで確認できる。

コベキナさん
「全く違いますね。教会とホールの差は歴然です。ここまで違うとは誰も思わなかったでしょう。」

音響設計家のマイアさん
「場所によって弾き方も変わります。ホールの響きに合わせて調整するのです。音響には多くの要因があり、設計者によっても変わりますが、大切なのはどう演奏するかです。乾燥していて、音の広がりや響きが少ないホールなら少し長めに音を出す。教会のように反響する場所なら、しっかりメリハリをつける 演奏の仕方を変えれば良いのです。」


眠りかけたところで、よだれがツツーっとたれそうなところでチェロの音色が聞こえてきて助かりました。
教会で弾く無伴奏チェロ組曲って、本当に神々しい。

今日はここまで。明日に続きます。

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