2019年7月1日放送『最高の音響を求めて。シューボックスかワインヤードか』(5) ミラノ・スカラ座の改修。
オペラの殿堂ミラノのスカラ座。でも音響は大問題。今の基準からすると残響時間が短すぎるのだ。二人の音響設計家がその原因を調べに来た。
ミラノ・スカラ座の芸術監督、アレクサンダー・ペレイラさん
「スカラ座の響きはドライです。第二次大戦後、すぐに再建する必要があったため、改修に時間をかけられず作業を急いだせいでしょう。もしかすると音響的に重要なことが見落とされたのかもしれません。そこで劇場の響きを良くする方法を探し始めました。どこに問題があるのか主に桟敷席を調べるよう言われました。桟敷席は昔ながらの布張りで詰め物が使われています。この組み合わせはかなり音を減衰させます。」
劇場のあちこちで録音した音を実験室で聞き比べる。
音響設計家ユルゲン・ラインホルトさん
「このダミー・ヘッドマイクを各座席に設置しました。パソコン上でこのように座席から座席へ飛び移ると、録音した音の比較ができ、場所による響きの違いが分かります。平土間の席の音はドライだが良い方です。最悪なのはやはり桟敷席で、全ての壁面と昔ながらの布カーテン、開口部の上飾り、肘掛のカバーに問題があります。歴史的建造物の改修はモザイクのようなもので、 一個の石を剥がせば良いわけではない。小石がたくさんあるのです。」
音響設計家ウィンフリート・ラッヘンマイルさん
「壁面の構造は前回の改修で変わりました。 防火のために石膏板を張ったのです。今、加速度センサーで測定しているのは壁の固有振動と共鳴です。(金槌で壁を叩きながら)こうして衝撃を与えることで、音の残響時間を計ることができ、壁の反響が望み通りかを確かめられます。」
劇場の音響特性を知るために歴史を覗いてみる。桟敷席の音響は今と全く違ったのだ。
ミラノ・スカラ座、芸術監督のペレイラさん
「桟敷席のいくつかは第二次大戦の爆撃を生き延びました。当時は鏡が多く使われ、絵画も飾られていた。この桟敷は壁面が全部鏡です。珍しい例で、非常に興味深いです。音を反射しますし、壁が平行でないのも良い。音の拡散を促す工夫が随所にあります。特に天井ですが(金の装飾が施されている)、おかげで居心地がよく、活気も感じられます。」
全面が鏡というのはかなり珍しいが、アナログな工夫の多くが音響に役立っていた。 過去のアイデアを借り、鏡を2枚入れて音響の分析をする。
壁面の滑らかさは残響時間にどれほど影響するだろうか。
音響設計家のラッヘンマイルさん
「今、空間のインパルス応答を測っています。音源からの信号に対する反応見るもので、これは観客が空間反射を経て、聴く音にに相当します。この測定で残業時間や、音の減衰の仕方や電波損失がわかり、エネルギーの流れを把握できます。」
改修した桟敷の音響は変わっただろうか?
ラッヘンマイルさん
「3つの桟敷の音エネルギーの分布です。後ろの端の座席でエネルギー損失が見られますが、改修した桟敷ではうまくバランスが取れています。」
結論はまだ出ていない。
スカラ座は調査結果を見て、音響改善の方法を決めることになる。
ミラノ・スカラ座、芸術監督のペレイラさん
「うまくいくかどうかは運次第ですが、あらゆる情報を専門家たちに提供して、可能な限り良い劇場にするつもりです。」
モスクワでは工事が完了し、ザリャジエ・コンサートホールは2018年9月に正式オープンした。
結局のところ良い響きとは何なのか 。
音響設計家の豊田泰久さん
「ホールの音響の話は舞台の上に演奏者がいないと始まりません。音楽は決して科学ではないのです。だからこそ音響を音楽と一緒に考えるのは面白い。非常に不思議な世界です。音響に謎はないが音楽は謎に包まれています。」
N響指揮者のパーヴォ・ヤルヴィさん
「演奏する側としては、ホールで3〜4小節も音を出せば、響きが良くないと分かります。これは良いと感じ、皆で顔を見合わせる。なぜかとても明らかで感覚的にすぐわかるのですが、何が良いかを正確に説明するのは難しい。バイオリンと同じでホールも楽器なのです。」
ってことはNHKホールで毎回弾くときは「こりゃだめだ」と思ってたりするのかな?案外と演者側の音響はいいのかな?
たくさん音響設計家が出てきて、名前も難しくて、「ちょっと何言ってるのかわかんない」ことも多々ありましたが、結局ワインヤード型かシューボックス型かどっちやねんと突っ込みたい。
まぁ結局は「好みやね。」ってとこですね。
個人的には特別感のあるワインヤード型が好き。でもレトロなシューボックス型もいいよねぇ。(←一番ハッキリしない人)
このドキュメンタリーのあとに番組でも取り上げられたモスクワの新コンサートホールで行われた2018年9月8日ザリャジエ・コンサートホール開場記念演奏会が放送。
ゲルギエフ指揮、マリインスキー管弦楽団の演奏がはじまるのでした。
もちろんオールロシアンなプログラム。
ペトレンコのオペラあり、ピアノ協奏曲あり(ピアニストのダニール・トリフォノフはひげモジャで登場)、ズーカーマンのヴァイオリン、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番を弾くデニス・マツーエフ、アンナ・ネトレプコのオペラ。
「これホールがすごいんじゃなくて、ロシアが凄いんじゃ…。だって…。ほんとうにもう、ロシア凄すぎるから…。」
そんな思いを抱いたドキュメンタリー&コンサートでした。
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