2019年7月1日放送『最高の音響を求めて。シューボックスかワインヤードか』(4) モスクワの一等地に建てられた新しいホール。その音響は?
モスクワの赤の広場付近にあるザリャジエ公園は一等地に作られた。建築費は公式には2億ユーロ、実際には4億ユーロとも言われる世界有数の高価な公園だ。人工の高台には新しい音楽ホールも建てられた。
ホール建設の芸術顧問はゲルギエフ。2018年5月自ら選んだ音響設計家、豊田泰久と共に現場を訪れた。
指揮者のワレリー・ゲルギエフさん
「クレムリンに隣接する場所で立地は最高ですが、周りには14〜15世紀の教会がいくつも建っています。新しいホールへの期待は大きいが、歴史ある既存の建物とのバランスも考えねばなりません。豊田氏は私が招きました。サンクトペテルブルクで組んだ経験を活かすためです。歌劇場にもなるのを作ったのですが、今回も同じです。オーケストラピットを設け、舞台に仕掛けを作り、劇場の設備を完備します。」
メインホールは1600人の観客を収容する。建材は慎重に選ばれた。舞台は杉材、床にはオークを敷き、座席にはアメリカンチェリー、壁にはマホガニーの板を使う。
豊田さん
「音響的に重要なのは、こうした壁材がしっかり固定されているということです。(壁をトントン叩いて)大丈夫そうだな。」
完璧な音響を求める豊田はワインヤード型を支持している。視覚的なものが音に影響すると信じているから尚更だ。
豊田さん
「私自身、見た目に惹かれます。何も見ずに演奏を聞くことはできません。ホールで何かを体験するときには必ず何かを見ています。見るものから受ける影響は非常に大きく、心理的にもかなりの効果があります。」
公式オープンまであと4ヶ月。新ホールは世界の一流ホールに名を連ねるだろうか。
ドレスデンでも由緒ある楽団のホールが立っていた。2017年3月ドレスデンフィルが大改築した本拠地。
音響設計家が目指したのはワインヤード型とシューボックス型の混合だ。
音響設計家のマルグリート・ラウテンバッハさん
「古いホールはもともと会議場でした。幅広の建物で響きが少ないので、むしろ演劇向きでした。」
音響設計家のマルティン・フェアカンメンさん
「私たちは建物の基本的な形を受け入れ、その中で何ができるかを考えました。最良のサイズや量、容量や高さを探し、理想に近づけたのです。音響は幾何学であり、あとから変えることはできません。つまり改善できることは限られているわけです。このホールは音の強弱を明確に伝えます。オケはそれを十分に利用するべきです。楽器を学ぶようにホールを知り、適応していかねばなりません。」
再オープンの3ヶ月前、楽員たちが初リハーサルに集まった。オーボエ奏者が初めてAの音を出す。関係者全員にとって特別な瞬間だ。響きは期待通りだろうか?
ドレスデンフィルハーモニー管弦楽団の演奏が流れます。
首席クラリネット奏者のファビアン・ディルさん
「我々には慣れない響きで、外国のホールのようです。ここが本拠地になり楽団の音は変わるでしょう。今のリハーサルでも 低弦のピアニッシモで微妙な変化に気づきました。活き活きと豊かに響きますが、そのぶん危険もあり、慣れが必要です。」
指揮者のミヒャエル・ザンデルリングさん
「今後も経験するのでしょうが、嬉しい瞬間がありました。まさに作曲家の意図通りにオケの音量が下がったのです。皆驚いて無言で顔を見合わせました。“すごい!”と。」
音響と同じで日常にも音の強弱がある。耳には休息が必要だ。絶え間ない騒音は心身の不調を招く。
指揮者のアラン・ギルバートさん
「レストランで周りがうるさくて会話しづらいことがあります。隣にいる人の言葉すら聞き取れない。これは日常生活における音響の具体的な例です。私の場合、会話のしづらい店はあまり選びません。やはり音響は大切なのです。」
ホールや劇場は日常の喧騒から逃れるための場所でもあり、レストラン同様に心地よさが求められる。
私もわりとまわりの声がよく聞こえてしまう性格なので、友達と飲むときは静かなお店を選びます。まさか指揮者のアラン・ギルバートさんと同じとは。
以前、レストランに行った時に隣のマダムが『ジョイフル本田』の素晴らしさを延々と語っていて、めちゃくちゃ『ジョイホン(マダムが略してそう呼んでた)』に行ってみたくなりました。やっぱりホームセンター好きとしては憧れの千葉ニュータウン店に夏休みすべてを捧げる覚悟で行ってみたい。
今日はここまで。明日に続きます。
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