2019年7月20日放送 SWITCHインタビュー 舘野泉×中村桂子(2)『左手のピアニスト誕生の裏側』

さぁ昨日からの続きです。左手のピアニスト


左手のピアニスト誕生の裏側


倒れてからおよそ2年で左手のピアニストとして復帰をすることを決めた舘野さん。しかし復活公演で演奏することになったある曲に戸惑いを覚える。数あるヴァイオリン独奏曲の中でも不朽の名作とされるバッハの『シャコンヌ』。それをブラームスが左手のピアノ曲として編曲した作品だ。

舘野さん
「単音が続く展開。両手で奏でる重厚な音色とは大きなギャップがあった。なんてつまらない音楽だと思って。単音で音を鳴らす。バイオリンならできるチェロならできるんだけど、ピアノでこりゃ大変なことだと。で、2か月ぐらい“つまんねーな”と思って。それでも2ヶ月経った頃に何か呼吸しているのがチラチラと分かるようになってきた。それからだんだん生きてきて一つの音楽になった。」

中村さん
「そういう事ってあるんですか。最初はつまんないというところから始まって。」

舘野さん
「音が一つ立ち上がると、世界が変わる。左手のピアニストになってから、もう15年経ちますけれども、今神様が“お前はいい子だ。とても立派な仕事をしてきた。ご褒美に右手も返してあげる”と言われても、“神様、もう結構です。僕は左だけで満足しています”って。」

中村さん
「最初にコンサートへ伺った頃は左手で弾いてらっしゃるんだなと思いながら聴いていました。この頃、全くそのことは考えない。多分皆さんそうだと思います。」

生きているということ。


中村さん
「さっきから、生きるという言葉を使いなりますね。生きているという感覚が一番大事?」

舘野さん
「それが大事ですね。ごく単純なことですけど、例えば庭にオリーブの木を植えたのがだんだん育って上に伸びて。あんな細い枝だったのがスーッと空を向いて育って大きく広がっていく。それを見て、生きるってそんな単純なことなんだと思う。」

中村さん
「単純っておっしゃるけど、とっても本質的なことですよね。私も生物学ですから、いろんな生き物たちを観るっていうことはよくやるんですけど、子供たちは植物って止まってるもんだって言うけれど、植物もお日様に向かって、意思があるって言ったら変ですけど、一生懸命生きようとしている。」

舘野さん
「だから自分も音楽とかそういうものを見て、上に上に向かっていく。」

中村さん
「本当に幸せですね。今があることと次があることがもしかしたら生きているということなんですかね。」

舘野さん
「それで毎晩焼酎飲んで、泡盛を飲んで。」

中村さん
「そこにいくんですか(笑)」

左手ピアノの世界を作る。

80を超えた舘野さん。年間およそ50の公演をこなす演奏活動と並行して力を入れてきたことが左手のピアノを世に広める取り組みだ。

例えば左手用の曲を増やすため、左手の文庫募金を設立。集まったお金で作曲家に曲作りを依頼し、これまでに100を超える作品が生まれた。

最近は左手のピアニストのための演奏会の企画にも精力的に携わっている。今年5月に石川県金沢市で開かれた世界的な音楽祭に舘野さんが企画に携わった。

左手のピアニストによる演奏会が行われ、事前のオーディションで選ばれた二人のピアニストがオーケストラと共演。ホールを埋め尽くす聴衆を魅了した。

舘野さん
「左手の音楽というのが、最近一つの分野を作りましたからね。そういう世界も必要だなと思ってるんです。」

中村さん
「演奏だけじゃなくて、いろんな形のものできちっとした分野に仕上げていく。それはずいぶん大変なお仕事ですね。大変なことだと思うんだけど、でもそれは大事なことですね。まだまだなさることが沢山終わりになって。」

舘野さん
「生命誌ということで始められたその分野も新しいでしょ?」

中村さん
「そうです。やることはいくらでもあります。この年だと普通ならちょっと静かにしてなさいって言われる時ですけど、幸か不幸かピアノも生物も終わりがないですから。もうちょっとやらせてくださいっていうのが共通の気持ちかもしれませんね。」

舘野さん
「さよなら、さよならとはいかないんですよね。」

ここで前半終了。
このあと後半は中村さんの高槻にあるJT生命誌研究所に舞台を移してインタビュー。

中村さん
「科学は論文を書いて終わりだけど、音楽は楽譜書いて終わりとは言わないし、ずっと続く。音楽を真似て科学を演奏したいと思った。」

と言って生き生きと話をする中村さんがとても素敵。中村さんが所長をつとめるJT生命誌研究所は、一般公開されているみたいで、ぜひ行ってみたいと思いました。

お話の中に宮沢賢治も出てきて「賢治はみんなが幸せになるためにどうしたらいいかをずっと考えてた人」

セロ弾きのゴーシュを開館20周年記念のときに人形劇をしたそうです。ちなみにそのときのチェロ奏者は谷口賢記さん。

舘野さんのお父様はチェリスト、宮沢賢治もチェロを少し習っていたし、セロ弾きのゴーシュ。ところどころでチェロというキーワードが出てきて嬉しかったです。あと金沢の音楽祭の演奏で、先日放送されていた左手のピアニストのコンクールに出場していた瀬川泰代さんが出演されていました。

穏やかで、自然を大事にし、今を生きるお二人にとても心が温まったインタビューでした。

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