2019年5月25日放送 Eテレ・SWITCHインタビュー 指揮者:大野和士×作家:原田マハ(4)『日本初!日本語による四重唱のオペラに挑む!』
- 2019.09.26
- SWITCHインタビュー 達人達(たち)
- SWICTHインタビュー, 大野和士, 原田マハ
大野を語る上で欠かせないのがオペラ。テレビにはベルギーで行われた『さまよえるオランダ人』の様子が映し出されます。大野は世界の名だたる歌劇場でオペラを指揮し、成功を収めてきた。
マハさん
「オペラって大野さんにとって一体どういうものなんですか?」
大野さん
「それぞれの国のシステムの違い、歌い手の国籍の違い、それぞれの国の言語文化と音楽の繋がり。いろんな人といろんな琴線に触れる歌とは何かって言うね。歌い手さんっていうのは声を出すプロフェッショナルでしょ。それで譜面を読んで、稽古に来てもらうわけですよね。」
「例えば椿姫っていうオペラがありますでしょ。椿姫が『tutti l’amore』って言うね。これは『私がすべての愛をかけた、あなたは分からないですか?』っていう。l’amoreって歌うときにね、上手い歌い手さんは、そこをすごく情感を込めて歌うんです。」
マハさん
「本当にオペラを愛してらっしゃるのがよく分かります。」
大野さん
「なので、今度はそれが音になってきてるんでね。それを音で表すにはどうしたらいいのかっていうのを、ドイツ語イタリア語フランス語の世界でも、自分の中で蓄えることができたという意味でのオペラ劇場巡り 。最終的にはクロアチアのザグレブでの経験と対をなすものですね。」
そして去年、日本の新国立劇場の芸術監督に就任した大野は新たな取り組みを始めた。新しい日本のオペラを作り、世界に発信しようとしている。大野が選んだのは石川淳の小説『紫苑物語』。
平安時代を舞台に歌の道をやめて、弓の道を極めようとする若者を描いた物語だ。
衣装デザインは和のイメージが強調されている。大野がこだわったのは日本語で歌うこと。出演するのは日本を代表するオペラ歌手。普段はイタリア語やドイツ語で歌う彼らが、日本語で幽玄な世界観を表現する。ヨーロッパで数々の経験を積んできた大野が取り組む日本語のオペラ。
マハさん
「なぜ今日本の新しい創作オペラに挑戦してみようと思われたんですか?」
大野さん
「日本語と台本の結びつきの中での微妙なニュアンスが音楽化された作品を、まずは作りたいという気持ちがすごく強くて。」
マハさん
「それは確かに聞いてみたいですよね。」
大野さん
「もちろんイタリア語のオペラも綺麗ですしフランス語のオペラもドイツ語のオペラもロシア語のオペラもとっても綺麗だし、英語のオペラも良い作品はたくさんあるんだけれど。でもこの新国立劇場は世に問う作品の一つとして、日本語による日本人の心の中にそのまま意味が入ってきて、そしてしかもそこにオペラならではの音とテキストの微妙な関係が引き起こす、心の中に広がっていく文様をおこすような作品を作る。それが新国立劇場の役割なんだろうなと思いましたね。」
マハさん
「スコアをちょっと見せていただきたいのですが。」
大野さん
「これがヴォーカルスコアと言われているピアノで弾いているところですね。宗頼(むねより)と弓麻呂(ゆみまろ)のところ。宗頼が家来を殺した後に何も感想がないんですよ。っていうのはこのセリフに出てきて『なんとなく射た』とね。」
主人公の宗頼が弓矢で家来を殺してしまい呆然とする場面。その心情をメロディーでつぶさに表している。
大野さん
「『何でお前は家来を射た?自分の配下のものを射た?』そしたら『わか…らぬ…、なんとなく…射た…』って言うんですよ。これだけでね、この空虚な心がね。これをロボットのように無機質でっていう風に書いたんだけれども、音楽で聞いた時にそう感じるかどうか、一番オペラとしての作品の成功に関わっている。後はどのぐらい複雑かっていうのはこういう譜面ですよね。」
マハさん
「すごい。さっぱり分かりませんけれども、何かビジュアル的に美しいですね。」
大野さん
「そうですね。これはですね四重唱なんです。日本語で四重唱が書かれた日本初のオペラなんですよ。今までなかったんですよ。」
4人それぞれが同時に歌う四重唱。
今回、大野がどうしても入れたかった手法だ。
大野さん
「オペラって、このくらいの時間帯の中に 違う人が違う台本で、違うリズムで、音程で。オペラであるがゆえに同時並行でいろんな気持ち感情情念を、違う旋律、違うリズムで歌って、ひとつの空間に収まるっていう、そういう秘密の玉手箱みたいな手法がある。これが満載なんですよね。ですからそういう意味では今までの日本のオペラの中にはちょっとない、オペラの革命が起こる。」
マハさん
「現時点での大野和士の全てをここに注ぎ込んだと言っても過言でない。そんな出来上がりになりつつあると。」
大野さん
「そうですね。まずこれを作ってから、また未来の色々な日本語の日本人の作曲家の作品を展開していこうではないかと。まずはこのオペラ作品というのを 作り上げたいっていう熱い思いがありますね。」
マハさん
「ありがとうございました楽しかったです。」
大野さん
「ありがとうございました。」
これで番組が終了しました。
ちょうど図書館から「予約していた本がご用意できました」とのことで、借りてきました↓
今から読むのが待ち遠しい。
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